名古屋地方裁判所 平成3年(わ)317号 判決 1991年6月10日
本店所在地
名古屋市港区当知二丁目六〇九番地
尾崎ハウス工業株式会社
(代表者代表取締役 尾崎榮一)
本籍
鹿児島県肝属郡佐多町伊敷二八七一番地
住居
名古屋市港区当知三丁目一〇〇番地
会社役員
尾崎榮一
昭和二三年一月六日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官森本善勝出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人尾崎ハウス工業株式会社を罰金三〇〇〇万円に、被告人尾崎栄一を懲役一年六月に処する。
被告人尾崎栄一に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人尾崎ハウス工業株式会社(以下「被告会社」という。)は、名古屋市港区当知三丁目六〇九番地に本店を置き(昭和五九年一一月三〇日から平成二年八月二七日までは、商号尾崎工業株式会社、本店同市港区当知二丁目一〇〇四番地)、建築工事請負・不動産売買及び仲介等を目的とする資本金一五〇〇万円の株式会社であり、被告人尾崎栄一(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、被告人自らまたは被告会社専務に指示して架空外注費を計上して経費を水増ししたり、簿外の定期預金を作成するなどの不正の手段により、所得の一部を秘匿した上、
第一 昭和六一年八月一日から同六二年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が二六七二万四一四二円であり、これに対する法人税額が九六二万三六〇〇円であるのに、昭和六二年九月三〇日、名古屋中川区尾頭橋一丁目七番一九号所在の所轄中川税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一〇二一万七四二円であり、これに対する法人税額が二六八万七七〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により正規の法人税額との差額六九三万五九〇〇円(別紙(一)脱税額計算書参照)を免れた
第二 昭和六二年八月一日から同六三年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が五九三一万九八二六円であり、これに対する法人税額が二三二五万三一〇〇円であるのに、昭和六三年九月三〇日、前記中川税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一九三〇万四八二六円であり、これに対する法人税額が六四四万六八〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により正規の法人税額との差額一六八〇万六三〇〇円(別紙(二)脱税額計算書参照)を免れた
第三 昭和六三年八月一日から平成元年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が二億四四二一万七七四〇円であり、これに対する法人税額が一億一一四万七七〇〇円であるのに、平成元年一〇月二日、前記中川税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二八八七万三二九〇円であり、これに対する法人税額が一〇七〇万三三〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により正規の法人税額との差額九〇四四万四四〇〇円(別紙(三)脱税額計算書参照)を免れた
ものである。
(証拠の標目)
(注)括弧内の甲、乙算用数字は、記録中の証拠等関係カード(検察官請求分)の証拠番号を示す。
判示事実全部について
一 被告会社代表者兼被告人の当公判廷における供述
一 被告人の
1 検察官に対する供述調書(乙11)
2 大蔵事務官に対する質問てん末書二通(乙3、9)
一 奥村修の大蔵事務官に対する質問てん末書三通(甲31、32、33)
一 大蔵事務官作成の査察官調査書二通(甲10、11)
判示冒頭の事実について
一 被告人の
1 検察官に対する供述調書(乙10)
2 大蔵事務官に対する質問てん末書二通(乙2、7)
一 大蔵事務官作成の査察官調査書(甲13)
一 商業登記簿謄本(甲1)
判示第一の事実について
一 大蔵事務官作成の
1 証明書(甲3)
2 脱税額計算書(甲6)
判示第二の事実について
一 大蔵事務官作成の
1 証明書(甲4)
2 脱税額計算書(甲7)
判示第三の事実について
一 大蔵事務官作成の
1 証明書(甲5)
2 脱税額計算書(甲8)
3 査察官調査書二通(甲9、12)
(法令の適用)
一 被告人について
被告人の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。
二 被告会社について
被告人の判示各所為は、いずれも被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社に対し、判示各罪についていずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項及び情状により二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金三〇〇〇万円に処することとする。
(量刑の理由)
本件は、被告会社を経営する被告人が、法人税を免れるため、取引先に依頼して架空の請求書を発行してもらい、架空外注費を計上して経費を水増しする等の手口で虚偽過少の確定申告を行い、昭和六二年七月期から平成元年七月期までの三年度にわたり、合計一億一四一八万六六〇〇円の法人税を脱税した事案である。
右脱税金額自体多額であるほか、ほ脱税率も三期平均で約八五パーセントにものぼるものであり、その手口をも併せ考えると、本件は悪質といわなければならない。
犯行動機につき被告人は、私欲のためでなく会社のためであったとか、平成元年七月期分については、利益が予期に反して多額だったため支払うべき法人税も多額になり、その支払にあてる資金がなかった旨弁解する。しかしながら、被告人は実質的には被告会社のオーナーであることや、浮かせた資金中、個人的な用途に供した部分もあることを考えれば、私欲のための犯行という一面も否定できない。また、被告会社の保有する資産や架空外注費でプールされている資金を活用すれば十分納税が可能であったことからすれば、納税すべき資金がなかったなどとも言えず、動機において酌量すべき余地に乏しいというべきである。
以上の諸点に、同種事犯に関する一般予防の必要性も併せ考えると、被告人の刑事責任は重いと言わざるを得ない。
他方、被告人は、摘発後、ほぼ一貫して本件犯行を認めて調査に協力し、当公判廷でも反省の情を披瀝しており、後記のように会社経理適正化のための方策も講じていることから、反省の態度が認められること、本税・延滞税についてはすでに納税済みで、重加算税についても納税の見通しがあること、被告人自身の再犯防止の決意の下に、税理士が会社経理に日常的に関与する体制を確立し、今後は適正な経理及び納税が期待できることから、再犯のおそれは少ないといえること、被告人には前科がないこと、被告人を欠くと、被告会社の経営が行き詰ること等の酌むべき事情もある。
以上の諸点を総合考慮し、被告会社を主文掲記の罰金刑に、被告人について主文掲記の懲役刑にそれぞれ処した上、被告人については今回に限り社会内で更生の機会を与えることとした。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 大山貞雄)
別紙(一) 脱税額計算書
<省略>
税額の計算
<省略>
別紙(二) 脱税額計算書
<省略>
税額の計算
<省略>
別紙(三) 脱税額計算書
<省略>
税額の計算
<省略>